卒業生Y君との出会い  ~入学式の日の帰り道~

冷たい雨が降っていた。

 無事、入学式を終え、ホッとした気持ちを抱えての帰り道だった。駅までの道を歩き、整肢療護園の通用門を通りすぎるとき、車いすにのった彼と出会った。本校の生徒かとも思ったが確証がないので、いったん通りすぎた。だが、気になった。彼は、カッパを着ていたものの、傘をさしていないのである。

 「君、傘は?」と聞くと、「あります」と言う。「どうしてささないの?」と問うと「前がよく見えなくて却って危ないから」との説明。そう言われても、息をはくと白くなるほどの寒さと冷たい雨。私と違い、頭髪がふさふさの彼には、寒さも冷たさも頭皮に直接ではないだろうが、放ってはおけない。傘を差し出して一緒に歩き始めた。

 すると彼は、「桐が丘の新しい校長先生ですよね?」と聞いてきた。「そうだけど。君は、桐が丘の生徒?」と言うと、「いいえ。3月まで桐が丘にいましたが、4月からは○○高校に進学しました」との答えだ。彼、Y君は、整肢療護園に訓練に来て、そこで顔見知りの桐が丘の生徒と会い、校長が変わったことを知り、写真も見せてもらったのだそうだ。

 どこまで行くのかと聞くと、家に帰るのと言う。家までは30分ほどかかる。これまでの桐が丘への通学でも、雨の日は同じだったから平気なのだ、とのことである。帽子くらいかぶったらいいのではないかと言うと、それも邪魔になるのだそうだ。いろいろなことを試した上で、このくらいの雨なら、カッパに身を包み、あとは悠然と進むしかないと決めているようだ。

 私も乗りかかった船。家まで、一緒に傘をさして行こうと決めた。Y君は、遠慮したが、ここは余計なお世話を押し売りする。寒さや冷たい雨から守りたいとも思ったが、この頃にはY君と話すことが楽しくなっていた。

Y君は話してくれた。振り返ってみると、桐が丘の9年間が充実していたこと。一番思い出に残っているのは、中学部で「池袋に行こう」という学習をしたこと。全部、自分たちで決めて、用意して池袋に行き、アトラクションを楽しんだこと、それが忘れられないそうだ。ちょっと不安もあるけど、高校生活も楽しみにしていて、入ろうと思う部活も教えてくれた。

 電動車いすのY君の頭の上に傘をさし、私も傘に入ると、ときどき車輪に足を牽かれる。それほど痛いわけではないのだが、彼は「すみません、大丈夫ですか」と気遣う。こんなところまで送って、私の帰りが遠くなるのではと心配もする。大丈夫、電車の駅は近いからと答えながら歩いていると、彼はピタリと止まった。一緒に歩いて25分位経った頃だ。「もう、そこを曲がると家はすぐですから、ここは駅ですので」と言う。目を転じると、そこは、歩道に突き出したエレベーター口であった。雨の中、かなりのスピードで移動し、私の矢継ぎ早の質問に答えながら、私の帰り方まで考えてくれていたのだ。

 もう、余計なお世話もここまでだろうなと思った。「じゃ、気をつけて」と言うと、「ありがとうございます」と頭を下げ、くるりと車いすを回転させ、前進していった。

※ 4月より、筑波大学附属桐が丘特別支援学校の校長となった下山直人です。この日記では、1年生校長の私が見た「桐が丘」を不定期配信で伝えていきます。桐が丘の子供たちのいろいろな表情を、桐が丘の先生たちの奮闘ぶりを、保護者をはじめ関係者の皆さんとの出会いを、私の切り口で書いていきます。日記とはいえ、週に1回程度のアップを目標としますので、お付き合いいただければ幸いです。感想などお知らせいただき、双方向の通信となればうれしい限りです。返信は、以下までメールにてお願いします。

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