6月1日 それぞれのスタートライン 〜スポーツ大会〜

 「Mさん、頑張って!」
 同級生の声援がとぶ。応援されたMさんは左手を小さく振って応える。
 声援は確かに届いた。

 ホイッスルの合図で、電動車いすがスタートする。
 先立って行われた50m競争や100m競争では、競う相手と一刻を争う激しさがあったが、スラローム競技は静けさと緊張感の中で行われる。今日は、東京都障害者スポーツ大会。桐が丘は、中学部と高等部が全員参加である。

 スタートした中2のMさんは、赤いピンの関門を後ろ向きで通り、白いピンの関門は前向きで通る。進行方向の真ん中にあるピンでは、そのピンを中心に回転する。赤は後ろ回り白は前回りである。30mに14の関門。電動車いすを操る微妙なのジョイスティック操作が要求される。

 4月、中学部の体育では、この大会に向けた練習が行われていた。Mさんは人工呼吸器を使い、鼻と口をマスクで覆っている。少し上向き加減で座っているため、高さ30cm位のピンは極めて見にくいはずだ。なのにピンを倒さず通り抜ける。私はそのテクニックに驚嘆した。

 スキルを研ぎ澄ましてきたMさん、声援に応えた手の振りは自信の現れか。スタートしてスイスイ進む。好タイムだろう。結果としてMさんは2位となり、銀メダルを獲得した。クラスメイトから祝福されて嬉しそうだ。

 障害者スポーツ大会は、公平に競うためにという趣旨から障害区分や年齢区分が細かい。その区分の参加者の多さ、少なさは順位に大きく影響する。努力が報われるとは限らない。50m走のような時間を争う競技にも、投擲のように長さを争う競技にも、スタートラインが引かれる。だが、もう一つのスタートラインがある。それは、自分が引いたスタートラインだ。

 4月の自分はここだ。そのスタートラインから、この大会で目指すゴールはあそこだ。そこに向かって頑張ってきた。そんな頑張りを讃えたい。大会を終えて、そんな振り返りをしてほしいと、生徒たちに話した。

 今日、また新たなスタートラインが引かれたことになる。