8月27日 バイク

施設併設学級の子供たちが登校してきた。施設職員に送られ、一人、また一人とやってくる。高等部Aさんに「おはよう」と声をかけた。返事はないが、私の方をちらっと見る。もう一度「Aさん、おはよう」と言うと、Sさんは短く「あっ」と答えてくれた。

少し前に挨拶して教室に向かった小学部のH君が、私のところにきて「ばいく」と言う。「えっ、ばいく、何?」と応えていると、担任のN先生が近づいて来て「H君、バイク見てもらいたいの」と言う。「そうか、バイクを見せてくれるんだね。」と言いながら、H君が差し出した手をとって、彼の教室のある方向に歩いた。

玄関から一番近い彼の教室前の掲示板に行くと、3枚の白い紙が貼り出されていた。そのうちの1枚に、バイクの塗り絵があった。「H君、バイクはこれだね」と言うと、彼はこっくり頷いた。バイクの縁取りの絵は、紫の線でなぞられていた。数箇所、水色の部分があり、その箇所は塗られていた。「紫のバイクなんだね。ここの水色もいいね。」と言うとH君は笑顔を見せた。

私から「本物のバイクを見に行く?」と提案する。H君は、何を言われたのか分からないようだが、N先生が「お外に、バイクがあるんだって、行ってみる」と補ってくれるとうなずいた。

1台のバイクが駐車している玄関に行く。持ち主には無断だが、許してくれるだろうと思う。赤と黒が基調の鮮やかな車体の前まで行く。私とN先生がH君に、いろいろ話しかけたが、H君はじっと車体を見ている。N先生が後ろに誘導した。ナンバープレートの数字を指さして、「これなあに?」と問いかけた。H君の分かる数字から、表出を引き出そうとしたのだろう。H君も数字を読み始めた。

もう一度車体側面に動くと、H君は一つ一つの部品に注目し始めた。そして、穴が空いている部分を指差し「あな」、ウィンカー部分を指差し「らいと」と言う。そして、ヘッドライドに網がかかった部分を指さし、「もち、みたい」と言った。私は耳を疑った。H君は、いくつかの物の名前を話すくらいかなと思っていたのだが、「○○みたい」と自分の知っている物に見立て、それを適切に表現しているのだ。これには驚いた。

H君は次に、バックミラーを指差した。届かない。N先生が抱き上げてミラーを覗かせた。自分が映ったのを見て喜ぶ。抱き上げられたた以上は、乗ってみるしかない。鮮やかな赤色の座席に座ってみる。グリップに手を伸ばした。左手は近いので届くが、右手は遠い。体を車体につけて、めいっぱい伸ばしてやっと右手がグリップに届いた。N先生が、「今度、(持ち主)のO先生にお願いしていろいろ聞こうね」と話しかけ、この朝の勉強は終わりとなった。

教室に入ることになり、周りを見回したところで、H君は、少し離れたところに止まっている車に気づいた。その車の方を指さし「あのくるま、なまえはなに?」と聞いてきた。私は、「くるまのなまえ」と聞かれてとっさに何と答えればよいか分からなかった。「カローラとか、そういうこと?」と言っても、それには応えてくれなかった。N先生によるとH君は車の図鑑を見たり、ミニカーで遊んだりするようなので、たぶん車の名前に興味を持っているだろうとのこと。それにしても、疑問形でお話ができることにも驚いた。

お昼にN先生から聞いた。H君はこの日の個別の勉強で、どうしてもO先生に御礼の手紙を書きたいと言い、次のような素敵な手紙を書いたそうだ。今頃、手紙は校内便で本校にいるO先生に送られていることだろう。

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