桐が丘特別支援学校 肢体不自由教育 Q&A
桐が丘特別支援学校での実践から,教科や自立活動の時間に役に立つ工夫をQ&A方式でまとめました。
いつもの学習の中で,「困ったな」「工夫したいけど・・・」いうことがあったら,
桐が丘特別支援学校の
soudan@kiri-s.tsukuba.ac.jpまでメールください。お待ちしております。
肢体不自由のある子どもの教科指導 Q&A を出版しました(2008/2)
○図工・美術科
Q.クレヨンやクレパスなどがうまく握れません。持ちやすい工夫を教えてください。
Q.テーブルの上に紙を固定してもとても描きにくそうです。
Q.ねんどで入れ物を作らせたいのですが・・・。
○技術・家庭科
Q.片マヒがある子が,安全に調理実習できる工夫を教えてください。(家―1)
○保健・体育科
Q.障害の重い子どもでもダンスができますか?(体―1)
Q.社交ダンス以外の車いすダンスはありますか?(体―2)
○自立活動
Q.よだれを止める方法はありますか?
Q.AACってなんですか?
Q.AACには,どのようなものがあるのですか?
Q.VOCAとは,何ですか?
○生活面
Q.骨形成不全症の子どもの介助方法を教えてください。
○図工・美術科
Q.クレヨンやクレパスなどがうまく握れません。持ちやすい工夫を教えてください。
絵を描くことが好きなのですが,力が入りすぎてしまい,すぐにクレヨンが折れてしまいます。クレヨンが持ちやすくなる工夫を教えてください。
(小学1年生)
A.細くて持ちにくいのであれば,画用紙などでホルダーを作ってあげましょう。
クレヨンは,細く短いものが多いので,握りこんでしまうことがよくあります。画用紙などを図のようにクレヨンに巻きつけて,セロテープなどで固定するだけでも,とても持ちやすくなります。クレヨンを太く,長くする効果とともに,すべりにくくもなります。
Q.テーブルの上に紙を固定してもとても描きにくそうです。
絵が大好きな生徒さんなのですが,紙を自分で押さえることが難しくなかなか思うように描けません。 テーブルの上に,テープなどで紙を固定してもとても描きにくそうです。
(中学 美術担当)
A.テーブルの高さや角度をつける工夫をしてみましょう。
紙を固定するというのは,よいアイデアだと思います。後は,テーブルの高さや角度をつける工夫をしてみましょう。市販のイーゼルを用いたり,書見台のような台を使って,画板に角度をつけることができます。
腕を伸ばして描くことが苦手な子どもさんの場合は,紙の方を動かして描きやすくするという工夫もよいでしょう。
Q.ねんどで入れ物を作らせたいのですが・・・。
ねんどで花瓶などの入れ物を作らせたいのですが,手が思うように使いにくく、粘土を細長く伸ばしたり,積み上げることが難しい子どもさんがいます。どう取り組ませたらよいのでしょう?
(中学2年生 美術)
A.ねんどのかたまりをくりぬいて入れ物状にしてみてはどうでしょう?
発想の転換によって,ねんどのかたまりをくりぬいて入れ物状にしてみてはどうでしょう? 肢体に不自由を持つ子どもさんは,比較的握力が弱い場合も多く,やわらかくこねた粘土を積み上げる作業は,やりにくさを感じる場合が多いでしょう。そういう場合は,逆にすこしやわらかくしたねんどのかたまりを用意して,ねんどべらなどで,くりぬき,形を作らせてみてはどうでしょうか?また,あらかじめ筒などを用意して,そこへ転がしながら巻きつけていくという手法も考えられます。本人の作品に対するイメージを大切にしながら,かつ,やりやすい方法に少し転換できる,柔軟な発想が指導のポイントになるでしょう。
○技術・家庭科
Q.片マヒがある子が,安全に調理実習できる工夫を教えてください。家―1
身体の片側にマヒがある子どもがいます。庭科の調理実習を楽しみにしているのですが,包丁の使用など不安があります。安全に調理実習ができる工夫を教えてください。
(小学5年生)
A.まな板に,釘などでくしを作っておきましょう
片マヒの方や手の動きのぎこちなさで,両手を使うのが苦手な方の場合,包丁を持ってしまうと切るものが押さえられなくなってしまいますね。
あらかじめまな板の一方に,釘のような棒を数本打っておくと,そこへ食材を固定することができます(写真1)。
また,包丁を握りにくい方のためには,下の図のような握り手のものを使うと作業がしやすい場合があります(写真2)。なお,この包丁を使う際には,まな板の下に,タオルなどを置いて少し傾斜をつけると切りやすくなります。
写真2
○保健・体育科
Q.障害の重い子どもでもダンスができますか?(体―1)
私の娘は脳性マヒの障害があります。手足の緊張が強く、首や胴体も不安定で自力での車いす移動は不可能です。ボールゲームなどのスポーツをするのは 難しく、本人も乗り気ではないのですが音楽に合わせて身体を動かすのは大好きです。ダンス活動ができればよいと思うのですがどのようにすればできるでしょうか。
(ダンスが好きな娘の母)
A.ダンスは重い障害のある人達が、障害のない人達と同様に楽しめる活動です。
ダンスはサッカーやバスケットボールなどの競技スポーツとは異なり、勝ち負けを競うことがなく、難しいルールや高度な技術を必要としません。また、うまく踊れたかどうかの判断は誰か他の人に決めてもらわなくても自分自身で考えればよいのです。これらのことから、ダンスは重い障害のある人達が、 障害のない人達と同様に楽しめる活動の一つになります。
障害の重い子どもたちがダンスをする場合も障害のない人たちが行うのと 同様、自分の興味や関心によってダンスの種類や楽しみ方を自由に選択することができます。
その際に、振り付けや補助の方法を工夫することで、楽に踊れるようになります。例えば、車いすでフォークダンスを行うときは、車いすの特性(前、後進、回転等)を生かした振り付けを考え、障害のない人がパートナーになって踊ることで、一人では 移動が難しい人でもダンスを楽しむことができます。
パートナーになる人は介助をするという気持ちで参加するのではなく、共にダンスを楽しむ仲間と考えてください。
Q.社交ダンス以外の車いすダンスはありますか?(体―2)
モーニング娘が大好きな車いすの高校生です。車いすダンスというと社交ダンスが主になっているようですが、私はモーニング娘のように現代的な曲でかっこよく踊りたいと思っています。社交ダンス以外にも車いすダンスはあるのですか。
(モーニング娘大好き少女)
A.車いすでかっこよく現代的なダンスを!
ダンスの楽しみ方は多様です。健康の維持増進や社交のため、スポーツダンスのように競技として、舞台で演じられる芸術表現として、心理療法として、ダンスゲームのように遊びや交流として等、様々な活動として行われています。
ところでダンスは大きく2つのタイプに分けることができます。一つは「型のあるダンス」で、社交ダンスやフォークダンス等、構成や振り付けが決まっているダンスが含まれます。劇場で演じられるクラッシックバレエもこの中に含まれます。
もう一つは「型のないダンス」で、即興的なダンスや創造的なダンスが含まれます。創造的なダンスを楽しみたい場合は、動きを引き出し、拡大してくれる音楽や小道具、パートナーや集団の動きを工夫することで、遊びの感覚で楽しむことができます。
車いすでもこれら様々なダンスを楽しむことができます。モーニング娘が踊るダンスは振付家が構成と振り付けを決める上演パフォーマンス形式の「型のあるダンス」に含まれます。モーニング娘の曲で踊りたい仲間を集めて振り付けを考えてみてください。
外国ではプロの車いすモダンダンスグループが存在していますが,日本でも車いすのヒップホップダンサーやモダンダンサーが活躍するようにようになってきました。車いすでも入場できるディスコもあるようです。また創作、即興ダンスのワークショップ等がインターネットで検索できるようになってきました。あなたの興味にあったダンス活動を探してみてください。
○自立活動
Q.よだれを止める方法はありますか?
保護者から,「よだれがでないように指導してほしい」と言われました。どのような指導をしたらよいのでしょう?
(自立活動担当)
A.「止める」方法ではなく,「よだれを自分で何とかしようとする気持ち」を持たせることが大切です。
よだれは,3つのだ液腺(耳下腺,顎下腺,舌下腺)から出るだ液を自分でうまく飲み込む(嚥下する)ことができないために,口角や口唇からもれ出てしまうものです。ふつうは無意識レベルで飲み込めるので,意識していないだけですが,いねむりなどして口が開いていると誰でも思わず出てしまうものです。
ですから止める方法をというよりも,だ液を飲み込むことができる,またはできるようになるということが必要となるでしょう。そうはいっても,口唇を閉じて嚥下をするための身体やその機能(はたらき)がうまくはたされていない場合には,簡単に飲み込むことはできなくなってしまいます。
指導においては,機能面に注目するだけでなく,まず,飲み込もうという意識,意欲を育てる,もってもらうということも大切です。社会通念からよだれがあるといろいろと誤解も受けます。不潔にもなりやすいということもあります。そこで,自分で何とかしよう,したいという気持ちを持ってほしいと思っています。ハンカチ,タオルを使って,自分で出たらふくということも必要です。
その上で,口の中でうまく,だ液を舌の上に集めて飲み込むために必要な土台となる身体の状態や機能すべき各部分について,そこがうまく使えていけるような学習を指導していきます。
これで,よだれを飲み込めるようになって,改善が見られた例,姿勢をよくして,首・肩・腕周辺がゆったりできるだけでも飲み込みがスムーズになっていく例もありました。
Q.AACってなんですか?
内言語が豊かで,とても明るい性格の子どもさんの担任をしています。言語が不明瞭なため,言いたいことが伝えられず,本人も周りの人も歯がゆい思いをしています。コミュニケーション手段としてAACというものがあるときいたのですが,どのようなものですか?
(小学3年生 担任)
A.AACとは補助代替コミュニケーションのことです。
コミュニケーション手段の確保は障害のある人たちの自立を支援する上で非常に重要です。現在の自立観の中心は自己決定(自分で選択し,決定すること)であり,それを実現するためには当事者が楽に意志を伝え,周囲の人はそれを正しく理解できる方法が強く望まれています。
これまで,コミュニケーションに関しては,話せることを目標にした言語訓練が主流でしたが,筋萎縮性側索硬化症(ALS)のような重度の表出障害を持っている場合,発声言語以外に自分の意志を相手に伝えるための方法を確保する必要があります。このような
コミュニケーション確保のためにAAC(Augmentative & Alternative Communication)と呼ばれる方法が考えられるようになりました。
AACは,日本語では補助代替コミュニケーションあるいは拡大代替コミュニケーションと訳されています。
Q.AACには,どのようなものがあるのですか?
小学4年生になる子どものことでお聞きします。言語表出が苦手なのですが,AACを用いたコミュニケーション方法を活用できるのではないかと思っています。どのようなものがあるのでしょうか?(小学4年 保護者)
A.写真や絵,コンピューターを用いたコミュニケーションエイドなど様々です。
AACは,日本語では補助代替コミュニケーションあるいは拡大代替コミュニケーションと訳されています。
AACによるアプローチを考える上で重要なのは「人はコミュニケーションするために必ずしも言葉を使う必要はない」という考え方です。日常生活の中で私たちはことば以外にジェスチャーや表情,指さし,目線など様々な方法で意志を伝え合っています。それぞれの障害の状態に応じて,話し言葉を補助・拡大したり,それに変わる方法を考えていったりするのがAACアプローチです。
AACの具体的な活用法は,多面的で,人の全てのコミュニケーション能力を活用します。それには,残存する発声,あるいは会話機能,ジェスチャー,サイン,エイドを使ったコミュニケーション等が含まれます。
AACの方法には,以前から養護学校などで使われてきたジェスチャー,写真や絵を用いたコミュニケーションボード,50音も地盤,シンボルなどの簡単な方法も含まれていますが,近年の科学技術の進歩により,コンピューターなどハイテクノロジーを用いた様々なコミュニケーションエイドが開発されてきています。これらの以前から行われている方法も含めた多様な選択肢から,障害のある子どもの実態と使用する環境や状況に応じて選ぶことが大切でしょう
(H16.4)
Q.VOCAとは,何ですか?
コミュニケーション機器に,VOCAというものがあるときいたのですが,どのようなものですか?
(身障学級 担任)
A.音声出力によるコミュニケーション補助機器のことです。
VOCA(Voice Output Communication Aids)は音声出力によるコミュニケーション補助機器を総称したものであり、音声を用いるので,伝達性が他の手段より高いのが特徴です。音声出力の方式は、機械的に音声を合成するタイプと子ども達の周りにいる人がメッセージを録音するタイプがあります。音声合成方式は文字を理解して、メッセージを作る必要があるため、認知障害があり文字をまだ獲得していない場合は音声録音方式を用いる方が適切でしょう。音声録音方式のVOCAはスイッチを押すという簡単な操作によってデジタル録音された自然な音声が再生されるため、脳性麻痺のような障害がある子ども達を対象として利用されるようになりました。その後、ダウン症や自閉症などの知的障害の子どもを対象としたコミュニケーション支援にも利用されるようになってきています。
音声合成方式機器の例としてトーキングエイド(ナムコ社)、音声録音方式の例としてはメッセージメイト(ワーズプラス社:販売終了)、ステップバイステップWITHレベル(エーブルネット社)などがあります。その他にも様々な製品がありますが、それぞれに特徴が違いますので活動の目的や障害の状態などによって選択するようにしてください。
ステップバイステップWITHレベル
○生活面
Q.骨形成不全症の子どもの介助方法を教えてください。
小学2年生の骨形成不全症の子どもさんの介助を学校ですることになりました。どんな点に配慮したらよいか教えてください。
(小学校 介助員)
A.骨折の予防に配慮しましょう。
骨形成不全症の子どもさんは,骨がとても弱いため,日常生活とその介助においては,骨折の予防が重要な留意点です。
介助の際には,不用意に腕や足を引っ張ったり、急に曲げたり、ねじったりする事は,避けてください。曲がったままで堅くなった関節を無理にまっすぐにしようとすることも,骨折につながる危険があります。
この疾病の子どもさんは,小さい時から骨折を繰り返していることが多いため,人に身体を動かされたり,介助されたりする時に,こわがったり,緊張してしまうことがあります。「身体を持ち上げるよ」「いすにおしりがつくよ」など,あらかじめ次におこる動きをことばで伝えてから,介助を始めるようにするとよいでしょう。
学校生活では,移動やトイレの介助の際に気をつけましょう。抱き上げる際は,できるだけ介助者の身体に子どもの身体を近づけ,支えられる面積を大きくすると安定感が増して,子どもの安心感も増すと思います。