学校での学びや体験が卒後の生活の支えになるように

 我が国の大臣が、その時々に国民に向けて伝えたい話を「大臣メッセージ」という形で発信することがあります。私にとって印象深く残っているのが、平成29年(2017)4月に松野博一文部科学大臣(当時)が発信された「特別支援教育の生涯学習化に向けて」というメッセージです。「障害のある方々が、学校卒業後も生涯を通じて教育や文化、スポーツなどの様々な機会に親しむことができるよう、教育施策とスポーツ施策、福祉施策、労働施策等を連動させながら支援していく」ことを「特別支援教育の生涯学習化」という言葉で表し、その支援体制の整備の促進等に取り組むことを宣言した大臣メッセージでした。 障害者にとっての「生涯学習」の必要性を取り上げ、社会の仕組みを変えていこうとする方向性が示されたことがとても画期的に感じられ、社会的にもインパクトのあるメッセージだと思ったものでした。時が経つのは早いもので、あれからすでに8年以上が経過しました。

 ちょうど平成29年4月は、現行の特別支援学校小学部・中学部学習指導要領が告示されたタイミングでもありました。同学習指導要領の第1章総則第5節1の「児童又は生徒の調和的な発達を支える指導の充実」の中に以下のことが示され、学校の教育活動においても生涯学習を見据えた取り組みが求められました。

(4)児童又は生徒が、学校教育を通じて身に付けた知識及び技能を活用して、もてる能力を最大限伸ばすことができるよう、生涯学習への意欲を高めるとともに、社会教育その他様々な学習機会に関する情報の提供に努めること。また、生涯を通じてスポーツや芸術文化活動に親しみ、豊かな生活を営むことができるよう、地域のスポーツ団体、文化芸術団体及び障害者福祉団体等と連携し、多様なスポーツや文化芸術活動を体験することができるよう配慮すること。

同様の配慮は、平成31年2月に告示された特別支援学校高等部学習指導要領にも記述されています。小学校、中学校及び高等学校の各学習指導要領の総則には、生涯学習に言及した記述がないことからも、特に障害のある児童生徒には、学校教育の期間に生涯学習への意欲をしっかり高めたり、生涯学習につながるような体験の機会を与えたりすることが必要だということです。

 ただし、生涯学習を意識した指導は、何も特別支援学校に限ったことではありません。高等学校の国語の目標には、「生涯にわたり国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う」ことが掲げられています。同じように保健体育の目標にも「生涯にわたって継続して運動に親しむ」こと、芸術の目標にも「生涯にわたり芸術を愛好する心情を育む」ことが掲げられており、生涯学習につながる能力や態度の育成が、教科の目標になっています。卒業後の社会生活を見据える高校生には、教科の中で生涯学習が意識されています。

 桐が丘には小学部、中学部、高等部が設置されており、最長なら12年間同じ学び舎で学校生活を送ることができます。しかし、それでも12年間です。学校で学ぶ時間は限られています。学校に通っている間に、しっかり生涯にわたり学び続けることができる基盤を育成する必要があります。気付きや喜び、感動などを味わう体験をできる限り積み重ね、卒業後の長い人生につなげてもらいたい。児童生徒一人一人のかけがえのない学校生活を支える責任の重さを改めて感じます。今回、学校だよりでも紹介した高等部生徒のボッチャでの活躍(全国ボッチャ選抜甲子園、CACカップ学生ボッチャ交流戦でそれぞれ優勝)も、将来につながる体験や喜びになると考えれば、一層喜ばしい限りです。