目的を達成するために
大人になった今、改めて寓話に接してみるとまた新たな気付きを得ることができるかもしれない。そんな思いで寓話を集めた本をパラパラとめくっていると、あるお話が目に留まりました。「木こり」のお話です。今では様々な道具が電動化され、木を切るにもチェーン・ソー(電動のこぎり)を使う時代です。大きな木を斧で切り倒す大変さも、徐々にピンとこなくなりそうです。寓話も時代とともに現実の生活とマッチしなくなり、今後忘れ去られていく話も出てくるのかもしれません。そんなことを考えながらも、今回は、斧で木を切る仕事を生業にしていた「木こり」にまつわる寓話を取り上げてみたいと思います。話の概略は以下のとおりです。
①ある木こりが材木屋から仕事をもらい、親方から斧を1本手渡され、森の一角を割り当てられた。
②初日は多くの木を切り倒し、親方に褒められた。
③木こりは、その後も朝早くから日が暮れるまで毎日精一杯仕事に励んだ。
④しかし、日に日に木こりが切り倒せる木の数は減ってしまい、1日数本となった。
⑤やがて、親方に呼び出された木こりは、自分は怠けた訳ではなく、毎日精いっぱい働いた結果だと説明した。
⑥それを受けて、親方は木こりに、最後に斧を研いだのはいつかと尋ねた。
⑦木こりは木を切るのに精いっぱいだったので、斧を研ぐ時間なんてなかった、と答えた。
木こりのお話は、このような展開で終わります。(この寓話は、戸田智弘著『ものの見方が変わる座右の寓話』〈ディスカヴァー・トゥエンティワン、2022年〉の第11章に「がんばる木こり」という題で紹介されています。興味のある方は読んでみてください。)
木を切り倒すという目的を果たすためには、斧のメンテナンスが必要だということに木こりは気付いていなかったという点に、このお話のポイントがあるかと思います。木を切ることは木こりにとって直接の仕事ですが、いい仕事をするためには、斧を研ぐことも木こりのもう一つの大切な仕事な訳です。目先の仕事をただこなすのではなく、その質を高める、あるいは成果を確実に上げることを考えたときに、どのような準備が必要か考えることが大切であるということを、私たちに教えてくれるお話だなと思います。
また、日頃忙しいと、明日に向けた準備やメンテナンスに気を配る余裕がなくなり、それらが疎かにされがちということもあります。毎日のちょっとした準備やメンテナンスが、明日のいい仕事につながるというモチベーションが、仕事の質の支えになることにも気付かせてくれます。
