つたえるのは命 つなぐのは命

 令和7年11月19日(水)から同21日(金)までの3日間、北海道旭川市で、第71回全国肢体不自由教育研究協議会が開催されました。主会場となったアートホテル旭川は、やり投で国際的に活躍されている北口榛花選手のお父様が、パティシエ(製菓料理長)をお務めになっているホテルです。開催前日に雪が降り、雪景色の中での北海道らしい大会となりました。
 初日は校長会の研究協議会や分科会の打合せだけでしたが、2日目・3日目の2日間は、文部科学省講話、10のテーマ別分科会(各分科会:実践報告2本)、記念講演、ポスター発表(全国から持ち寄られた52の教育実践の発表)が行われ、3日間を通して旭山養護学校の学校公開もあり、充実した協議会となりました。桐が丘からは、高橋佳菜子教諭が「キャリア教育及び進路指導」をテーマにした分科会に参加し、今年度新設の学校設定教科について取組を発表しました。

 さて、今回ご紹介したいのは最終日に行われた記念講演についてです。講師は旭川市旭山動物園の統括園長である坂東 元(ばんどう げん)氏でした。坂東氏は旭川市のご出身で、1986年より同園で獣医師としてお勤めになり、2009年から園長、2024年から現職をお務めです。演題は「つたえるのは命 つなぐのは命」で、動物の写真や動画などを交えながら、約1時間お話しになりました。
 坂東氏は、当日動物園での服装(作業着)のままお見えになり、膝下まである長靴も履いておられて、飾らない仕事着での講演にとても好感を持ちました。生まれたてのカバの子供が、水面に目と鼻と耳を出して移動しているので泳いでいるのかと思きや立ってちょこちょこ歩く様子や、生まれたてのホッキョクグマの子供が、足を滑らせて岩場から下の池に落ち(初泳ぎ)、丘に上がったときには体の汚れがすっかりきれいになって真っ白だった様子、子熊がバケツなどで戯れていて柱の陰に隠れたと思ったら二足歩行で歩いて出てきた様子など、愛らしい映像もいっぱい見せていただき、そのたびにほのぼのとした笑いが会場を包みました。
 しかし、お話の中身はとても深みがあり、いろいろと考えさせられる1時間でした。かつて閉園の危機を迎えた同園は、狭い檻(おり)の中に閉じ込めた動物を観せるのではなく、動物の行動や生活を観せる行動展示という形態に切り替え、入園者数をV字回復させて国内有数の人気のある動物園に生まれ変わりました。管理するため動物を檻の中に閉じ込めるのは人間の理屈で、動物が生まれ持った感性や能力を発揮できるよう様々な事柄をはぎ取っていったという発想の転換が、園の改革の原点になったと話されていました。「一人称が誰なのかで環境づくりが大きく変わる」、「何かあったときのために経験は必要で、安全優先ばかりではそうした経験ができない」、「管理した中でどれだけ感性や能力を開放できるようにしてあげられるか」などは、私たちの日常にも繋がる話でとても共感いたしました。そして、ご講演最後の「命を終わらせてくれる仕組みの中で命があふれているのが『自然』」、「死は忘れるものではなく心の中で生き始めるもの」という言葉に、演題(園のスローガン)の意味がしみじみと胸に染み入る感じがいたしました。