桐高生日記vol.19

T君(高3)の日記から・・・

 8月のある日、外側に向かって開くタイプの小窓を閉めようとすると、窓枠の底面の部分に羽を怪我したらしき1匹の虫がつかまっていました。私としては日ごろ虫を忌み嫌っていますし、何よりゴキブリとの遭遇も多く心底うんざりしていましたので、網戸越しにスプレーを噴射して短い出会いを終えてしまおうかとも思いました。しかし、さすがに家の外ですし、無害であるのに殺してしまうのは忍びなく、その場は放っておくことにしました。その時、私の中には歩いて去ってくれるだろうという期待感と、日ごろ私を憂鬱にするものに対する意地悪な気持ちとがあったわけですが、結果的に「かれ」と私は階段を上り下りするたびに顔を合わせる数奇な隣人となりました。
 数日後、雨がひどくなり慌てて窓を閉めに行くと、例のごとく「かれ」はへばりついていて、数日の窓開け閉めに対する攻防にさすがに我慢のならなくなった私は、軽く小突いてみることにしました。そのピクリともしない様子を見て、もはや「それ」と呼ぶべきだと悟った私は、私にしては珍しく「これ」の持っていた胆力に称賛の気持ちをもって地面におろしました。
(2020.9.11)

(先生から)
 日記というより「私小説」感の強い、T君の作品です。例年だと、秋の桐が丘祭で「文芸パート」に属し、文芸集を作っているのですが、今年は諸般の事情でそれも不可能に・・その思いを、この日記にぶつけてくれたのかな?文末の「『これ』の持っていた胆力に称賛の気持ちをもって地面におろしました。」の表現が、何とも言えない余韻を残します。

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